温度で胡蝶蘭を好きな時期に咲かせる《開花調整方法》

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お祝いの場面で贈られる胡蝶蘭ですが、お祝い事は決まった時期にあるとは限りません。そのため、一年中胡蝶蘭は花屋に並び、ネット通販でも通年売られています。それは全国の生産者が温室栽培をし、年中届けられるようにしているからです。

冬がどの程度寒くなる地域かによりますが、室内で育てている胡蝶蘭は通常、春~初夏(3月、4月、5月)辺りが一般的な開花時期となります。そのため温室がないと、好きな時期に咲かせることができないと思われている方も多いかもしれません。しかし、胡蝶蘭の花が咲くメカニズムを知れば、開花時期を調整し、好きな時期に咲くようある程度コントロールすることができます。

そこで今回は、胡蝶蘭が開花する温度のメカニズムを解説しながら、好きな時期に開花させる方法を紹介します。栽培している方は、ぜひ参考にしてみてください。


胡蝶蘭の開花調整の歴史


一般的な栽培しか行っていない1960年代までは、胡蝶蘭の咲く季節は決まっていました。
それが1970年代になって、結婚式用のブーケなどに胡蝶蘭が使われ始めると、開花調整をする研究が行われるようになりました。大学などで胡蝶蘭が開花するための条件が調べられ、株を高温下に置くと開花せず、その株を低温に移すと開花することが分かりました。
そこで温室を利用した開花調整が行われるようになり、1980年代後半には一年中花屋に胡蝶蘭が並べられるようになりました。
今でもこの方法で生産者は株を育てたり、開花させたりしています。


胡蝶蘭の花が咲くサイクルを理解する


日本の環境下にある胡蝶蘭は、春に花を咲かせ、夏に株を生長させ、秋に花芽をつくり、冬に休止状態となり、春にまた花芽を伸ばして花を咲かせます。
なぜこのようなサイクルで胡蝶蘭は生長や開花を繰り返しているかというと、「温度」が影響するからです。

温度が高い夏(1日の平均温度が28℃以上)は、根を伸ばし、新しい葉をつくり、株がどんどん成長していきます。充実した株になればなるほど花が咲きやすく、輪数も増えるため、夏の暑い時期に胡蝶蘭は株を大きくします。
温度が低い冬(1日の平均温度が10℃以下)は、休止状態になります。もともと熱帯や亜熱帯地方に自生する胡蝶蘭にとって、日本の寒さはつらいのです。活動を休止して、ぐっと耐え忍ぶ時期です。

この2つの季節の間に秋があります。胡蝶蘭は秋に花芽分化(※)を起こします。暑かった夏が徐々に涼しくなっていき、1日の平均温度が21℃位(最低温度が18℃)の環境になると花芽をつくり始めます。この環境に30日程度置かれることで、花芽が目視で確認できるほどに生長しています。

室内で育てている胡蝶蘭にとって、日本ではこの花芽をつくる季節が、秋の10,11月あたりになり、その後寒さで休止状態に入ったあと、また春の3,4月あたり花芽を生長させ開花するのです。

※ 花芽分化(はなめぶんか)とは、植物は発芽後、葉や根を大きく生長させるのですが、やがて生殖のためにそれをやめ、花になるための芽をつくることになります。この顕微鏡でなければ見えないような花芽をつくることを花芽分化といいます。


温度で開花をどう調整するのか


胡蝶蘭は2,3カ月と長く花を楽しむことができます。そのため秋から春の最低温度を上手くコントロールすることができれば、2月~7月の間に花を楽しむことができます。(それ以外の時期に花を楽しみたいのであれば、温室や保温設備で一年中温度管理をする必要があります。)
つまり、好きな時期に開花調整をするには、株がどんな場所に置かれるか、その温度を調整してあげればいいのです。

過湿し最低温度を保っておけば、株は生長し続け花芽分化が起こりません。
逆に咲かせたい場合は、咲かせたい時期の4,5ヵ月前に最低温度を1日の平均温度が21℃位(最低温度が18℃)にして花芽分化を起こさせます。

株が生長する期間を長くして花芽分化を遅らせたり、休止期間を短くして花芽の生長を早めたり、逆に休止期間を長くして花芽の生長を遅らせるなど様々な方法で開花時期を調整することができます。(ただし、たくさんの花を咲かせるためには充実した株がであることが必要なため、株が生長する期間はできるだけ長くした方がいいでしょう。)

例えば一例として、11月頃に最低温度18℃の環境になり花芽分化が起きた株を「2月に咲かせようとした場合」「5月に咲かせようとした場合」の2パターンを考えてみましょう。

  • 2月に咲かせようとした場合
    株を2月頃に咲かせるのであれば、そのまま冬の環境(1日の平均温度が10℃以下)にならないように管理する必要があります。寒い温度環境で休止状態にならないよう、置き場所に気を付けつつ花芽を生長させれば、3,4カ月後から徐々に花が咲きはじめます。
  • 5月に咲かせようとした場合
    株を5月に咲かせるのであれば、休止状態の期間が必要です。11月に花芽分化が起きた株も、冬の環境(1日の平均温度が10℃以下)になるにつれ花芽の生長が止まります。例えばその期間が、12月~2月の3カ月間あったとします。3月から休止状態の環境から、花芽が生長する温度に変わることで、止まっていた花芽がまた伸びはじめ、5月から徐々に花が咲きはじめます。

気温や部屋の構造(鉄筋や木造など)をコントロールできるわけではないので、温室でもない限りここまできちんと管理して咲く時期をコントロールするのは難しいかもしれません。しかし、秋から春の間に玄関に置いてある株と、リビングに置いてある株では温度環境に差が出ます。比較的暖かいリビングと、比較的低い温度の玄関では咲く時期が変わってくるのです。
環境や地域によって気温は違いますが、室内でも日光が当たり暖気が集まりやすい場所なのか、比較的寒くなりやすい場所なのかでも当然開花タイミングに差がでます。株を複数持っている場合などは、置き場所を変えて開花タイミングをずらすことも可能なのです。

このように温度を意識しながら開花を調整できるのは、胡蝶蘭栽培のおもしろさの一つともいえます。

いかがでしたでしょうか。
今回は、胡蝶蘭を好きに時期に咲くようコントロールする調整方法を紹介しました。株をいくつか持っている人などは、株ごとに開花時期をずらしてみて、より長い間胡蝶蘭を楽しむなんてことができたりします。
胡蝶蘭は夏に大きく育って、秋に花芽を作り、冬に休んで、春に花芽が伸び花を付けます。これは、株が温度を感じ取って生長のサイクルを回しているのです。秋の寒さを感じ花芽を作るタイミングで暖かい場所に保管することで夏の生長期間を長引かせたり、冬の寒さで休止状態になるところを、寒くなり過ぎない対策をすることで休止期間がなくなり花芽を育てて咲かせることができます。
こうした胡蝶蘭と温度との関係性を知ることで、花が咲く時期を調整することができます。冬のラン展などにある胡蝶蘭もこのような温度管理の調整で咲かせた花だったりします。

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